文様の解説3 小袖の文様(2)
 

〈慶長小袖〉
江戸時代の初期慶長年間を中心に作られた小袖を特に、慶長小袖といいます。
小袖全体を絞り染めで円形・方形・三角形・菱形あるいは不整形に大きく区切り、紅・白・黒・藍に染め分け、その中に刺繍で草花・鳥・器物などの文様を細密に配置し、さらに摺箔などを加えるというかなり手のこんだものが作られました。

これまでに築いた技術をすべて加えたものといえるのではないでしょうか。数々の技法で生地が見えないほどにびっしり埋めていることから、「地無し小袖」とも呼ばれてきます。
色彩的には暗い感じを与えますが、金箔・銀箔をふんだんに使用し、桃山時代の建築・調度品に見られた、金銀箔のきらびやかさをきわだたせた濃厚な趣味が、小袖にも伝存したものと思われます。
慶長染繍小袖
〈寛文小袖〉
江戸時代前半の寛文年間には、主として肩から右身頃にかけて大柄な文様を配し、左身頃には余白を持たせた構図の小袖が流行しました。
技法としては、金糸を豊富に用いた刺繍が見られ、色調は明るくなり、主題のある文様を、はっきりとわかるように配しています。寛文小袖の特徴は、余白を生かした構図にあるといえるでしょう。

また、この頃数度の大火で、多くの衣装を焼失したことから、早くて豪華に見えるキモノをという要求に応え、このような小袖が作られたという説もあります。しかし、大火にみまわれる以前からすでに考案されており、江戸時代の町人文化が興ろうとする躍動的な時代の気風をそのままに表わした構成で、その大胆さに魅了されます。
寛文小袖裂
絞り松寿文様
寛文小袖裂
源氏車に波寿文様

江戸時代前期(寛文)小袖裂
黒地幔幕松枝文様
幔幕に松疋田で文様に変化をつけ、刺繍の文字があったものと思われる。
〈元禄小袖〉
江戸時代中期の元禄の頃は、上方を中心とした町人文化の最盛期でした。その頃作られた小袖は、文様をキモノ全体に散らしたものや、裾から背へかけて覆うように大きな文様を配したものが見られます。


寛文年間の余白を生かした美しさとは異なり、小袖全体におよぶ文様に、迫ってくるようなたくましさを持たせたものが好まれたようです。技法としてはやはり、絞りと刺繍が主でした。

そして、現在のキモノを語る上で、なくてはならない友禅染も、この時代に完成されたものです。自由で優美な絵画風の文様を独自の意匠と技術で表わす。このまったく新しい染方はたちまちのうちに大流行します。
友禅染の出現によって、日本の染織の美はさらに豊かな成長を遂げることになりました。
打掛